Vol.017 たんぱく質会合体の選択的オートファジーには、会合体の持つ流動性が重要である

出典:Akinori Yamasaki, Jahangir Md Alam, Daisuke Noshiro, Eri Hirata, Yuko Fujioka, Kuninori Suzuki, Yoshinori Ohsumi and Nobuo N Noda
Liquidity Is a Critical Determinant for Selective Autophagy of Protain Condensates
Molecular Cell 19; 77(6): 1163-1175 (2020)

背景

オートファジーとは、酵母からヒトまでが持っている細胞内の主要な分解経路であり、オートファゴソームと呼ばれる脂質膜の袋で分解対象を包み、リソソームへ輸送することで分解を行う機構である。オートファジーは、有害なたんぱく質や傷ついたミトコンドリア、病原性細菌などを狙い撃ちして分解することも知られており、選択的オートファジーと呼ばれている。

選択的オートファジーは、分解対象以外のたんぱく質やオルガネラが入らないように、オートファゴソームの前駆体(隔離膜)は、分解対象物に密着し伸長する。分解対象物は、隔離膜を覆っているAtg8たんぱく質と結合することで隔離膜に密着し、選択的な囲い込みを受ける。しかし、隔離膜による分解対象の選択的な囲い込みがAtg8たんぱく質のみで行われているかは不明のままである。また、たんぱく質は、細胞内で液-液相分離し、形態が変化することが知られているが、選択的オートファジーがどのような状態のたんぱく質を標的にできるかは不明であった。

この論文では、出芽酵母Ape1たんぱく質とApe1変異体のP22Lを使用し、選択的オートファジーが標的にできるたんぱく質の状態を検討した。

Keyword: 液-液相分離

液-液相分離とは、2つの液体が混ざり合わずに互いに排除しあうことで2相に分離する現象である。日常生活では、ドレッシングの水と油の分離としてよく観察される。細胞内では、液-液相分離を起こし、周囲とは異なる液相を形成することで、水に浮かぶ油滴のように細胞内で液滴を形成する。


会合体

会合体とは、同種の分子が分子間力によって2個以上結合し、1つの分子のように振る舞う現象である。


液滴

液滴とは、たんぱく質や核酸が液-液相分離することで形成した液体状の会合体である。自発的に球形になる性質があり、内部流動性が高く、周囲とも活発的な分子交換を行う性質を持つ。

観察結果

HS-AFMで、Ape1とApe1変異体のP22Lを観察した。Ape1の表面は、滑らかな球状を示すことが明らかとなった(図A)。また、FFT bandpass filterを使用することで、Ape1液滴の表面は活発に活動していることが観察された。一方でApe1変異体のP22Lの表面は、粒上の起伏がある凝集構造を示し(図B)、P22L変異体の凝集体表面は、ほとんど動いていないことが観察された。この結果から、選択的オートファジーの標的となるためには、Ape1は、凝集体ではなく滑らかな球状を示す液滴を形成することが重要であることが示唆された。

オートファジーの研究は、新しい学問である「相分離生物学」から研究されている。相分離生物学は、分子と細胞の間に焦点を当て、生体分子の集合体であるドロプレット(小さなしずく)を主役として扱う分野である。たんぱく質が液-液相分離したドロプレットは、様々な生命現象と関連しており、遺伝子の転写や翻訳、シグナル伝達、細胞内品質管理など多岐に及んでいる。HS-AFMは液中で試料を直接観察することが可能であり、本論文では、HS-AFMを活用することで液滴に含まれるたんぱく質の形状を明らかにしている。そのため、HS-AFMは、オートファジーの解析ツールとしてだけでなく、相分離生物学の測定・解析ツールとして有用であることが分かる。

高速AFM観察画像

図A Ape1液滴凝集体のAFM画像
Ape1液滴凝集体は、滑らかな球状を示し、高さが約120nmであった

図B Ape1変異体のP22L液滴凝集体のAFM画像
Ape1変異体のP22L液滴凝集体は、粒上の起伏があり、高さが約200nmであった

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出典論文

Yamasaki A, Alam JM, Noshiro D, Hirata E, Fujioka Y, Suzuki K, Ohsumi Y, Noda NN
Liquidity Is a Critical Determinant for Selective Autophagy of Protein Condensates
Mol Cell. 2020 Mar 19; 77(6): 1163-1175

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1097276519309566

 

使用機種

プローブスキャン型高速原子間力顕微鏡 PS-NEX

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