出典:Inoue S., Uchihashi T., Yamamoto D. and Ando T.
Direct observation of surfactant aggregate behavior on a mica surface using high-speed atomic force microscopy. ChemComm(2011)
要旨
「自己組織化」とは複数の要素同士が自発的に秩序ある構造体を作り出す現象である。
界面活性剤は自己組織化現象によって膜やミセルといった構造体を形成するが、
その構造体は洗浄作用など、産業上有用な特性を示すことがある。
そのため、界面活性剤の自己組織化は学術界だけでなく、産業界においても注目を集めている現象である。
しかし、自己組織化現象の研究の多くは、自己組織化後の構造に着目した解析であり、自己組織化の過程についての理解は進んでいなかった。
そこで、本研究では高速AFMを用いた解析により、界面活性剤CTACの自己組織化現象を分子レベルでリアルタイム観察し、膜構造の形成機序を明らかにした。
Keyword: 界面活性剤CTAC
CTACは化学式C19H42ClNで表される界面活性剤であり、シャンプーやコンディショナーなどに使用されている。
界面活性剤は水に溶けやすい親水性部位と、水に溶けない疎水性部位を持つ。
水中に界面活性剤を添加すると、疎水性部位と水分子が極力接しない状態へと遷移する。
そのため、膜やミセルといった構造体が自発的に形成される。
観察結果
CTACは、マイカ基板上に滴下後10秒から30秒後にミミズのような筒状の構造体を形成し、さらに300秒後には平坦な層状の構造へと変化した。
この結果は、CTAC膜の自己組織化は段階的に起こることを示唆している。
次に、塩の存在が自己組織化現象にどのような影響を与えるかを解析した。
低濃度の塩化セシウムが存在すると、球状のCTACが20秒後に筒状へと変化をはじめ、30秒後には安定した筒状構造になった。
さらに塩化セシウムが高濃度で存在すると、CTACは球状のままで存在し続けた。
これらの結果から、塩濃度は、CTACの平衡状態の構造だけでなく、平衡状態に達するまでの時間にも影響することが示された。
以上のように高速AFMを用いた解析により、従来の手法では分からなかった自己組織化のダイナミクスが明らかになった。
高速AFM観察画像
異なる濃度の塩化セシウム存在下におけるCTAC平衡状態構造の変化
左:0mM CsCl(純水)、中央:34 mM CsCl、右:100 mM CsClの条件におけるCTACの高速AFM像。
塩化セシウム存在下においてCTAC膜の平衡状態や、それに達するまでの時間が変化している。
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出典論文
Inoue S, Uchihashi T, Yamamoto D, Ando T.
Direct observation of surfactant aggregate behavior on a mica surface using high-speed atomic force microscopy. Chem Commun. 2011 5(7);47(17):4974-6.
doi: 10.1039/c0cc05762b.
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2011/cc/c0cc05762b#!divAbstract